プロ野球新人王争い、記者投票と球団評価はこう違う

SN新人王

6人で争ったセの新人王、パは5人

2021年の新人王争いは史上稀にみる激戦だった。新人王のほか、特別賞がセ5、パ1の計6人を数えた。

新人王は記者投票で選ばれるのだが、投票用紙に書けるのは1名のみ。同じ投票でもMVPは3名連記で、1位から5点、3点、1点のポイント制。新人王がいかに厳しいかが分かる。

投票総数はセ306、パ286と異なる。投票結果は次の通り。(数字は得票数、成績は受賞者)

セ・リーグ

  1. 栗林良吏:201(広島、トヨタ自動車)=37セーブ
  2. 牧 秀悟:76(DeNA、中大)=3割1分4厘
  3. 奥川恭伸:12(ヤクルト、石川・星稜高、2年目)=9勝
  4. 佐藤輝明:8(阪神、近大)=24本塁打
  5. 中野拓夢:5(阪神、三菱自動車岡崎)=30盗塁
  6. 伊藤将司:4(阪神、JR東日本) =10勝

パ・リーグ

  1. 宮城大弥:255(オリックス、沖縄・興南高、2年目)=13勝
  2. 伊藤大海:21(日本ハム、苫小牧駒大)=10勝
  3. 紅林弘太郎:4(オリックス、静岡・駿河総合高)
  4. 早川隆久:4(楽天、早大)
  5. 佐々木朗希:2(ロッテ、岩手・大船渡高、2年目)

新人王は栗林と宮城。特別賞はセの②から⑥までで、全員が受賞となった。パの特別賞は②だけ。

 

年俸で牧が栗林をしのいだ球団評価

投票された選手の22年年俸は全員アップ。注目は牧が栗林より高額の評価を得たことである。記者と専門家(球団)の違いといえる。受賞者の年俸は次の通り。(数字は万円)

①牧=7000(+5700) ②栗林=5300(+3700) ③宮城=5000(+4130) ④伊藤将=4400(+3100) ⑤佐藤=4200(+2600) ⑥伊藤大=4100(+2600) ⑦中野=3700(+2700) ⑧奥川=3600(+2000)

記者投票では25%の牧が66%を占めた栗林を1700万円上回った。牧は137試合に出場し、後半戦は4番に座って打率3位に22本塁打。打線の軸になった。1300万円から5倍を超えるアップで、1億円は間もなくというところに一気に駆け上がった。栗林は20試合連続セーブなどがあったが、投球1イニング、しかも勝ち試合限定の登板。常時出場の牧との差が出たのだろう。

宮城も1億円の道である。更改交渉でも勢いがあった。最初の提示は5000万円に届いていなかったのだが、「切りのいいところで5000、どうでしょう」と勝負球を投げ、球団が打ち取られたという。「交渉上手」との評価もされた。

 

ハイレベルの対決を制した稲尾、川上、田中、村上ら

過去にも激しい新人王争いはあった。

その最初は1956年(昭和31年)。西鉄の無名投手、稲尾和久(別府緑が丘高)が21勝、防御率1.06を挙げて優勝に貢献。180安打を放った佐々木信也(慶大-高橋ユニオンズ)を破った。

59年は大洋の主軸を打った桑田武(中大)と阪神のエースとなった村山実(関大)が争った。桑田は31本塁打の新人最多記録を作った。対する村山は18勝を挙げ、防御率1.19はタイトル。東日本の大票田が西日本を制した形だった。

ともにドラフト1位で同じ15勝。87年、近鉄の阿波野秀幸(亜大)が日本ハムの西崎幸広(愛工大)が激しい争いを演じた末に勝った。明暗を分けたのは投球回、奪三振、防御率だった。

98年は神宮のスターがぶつかった。中日の川上憲伸(明大)が14勝6敗、防御率2.57。巨人の高橋由伸(慶大)は打率3割、19本塁打、75打点。好成績同士だったが、両者の直接の対戦で22打数1安打に封じた川上が勝った。

2000年代では07年に楽天の田中将大(駒大苫小牧高)と西武の岸孝之(東北学院大)がともに11勝をマーク。完封数と奪三振数で田中に軍配が上がった。13年はヤクルトの小川泰弘(創価大)が16勝を挙げ、13勝だった巨人の菅野智之(東海大)を振り切った。19年はヤクルトの2年目、村上宗隆(九州学院高)が36本塁打を放ち、159安打、36盗塁でタイトルと活躍した阪神の近本光司(大阪ガス)を抑えた。

最高の名誉がある。新人王とMVPの両方を受賞することで、これは一生に一度のワンチャンスの新人王をつかんだ選手だけが持つ資格である。今年、セの村上が実現した。栗林と宮城の夢が膨らむ。


著者プロフィール

菅谷 齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。黒い霧事件、長嶋茂雄監督解任、江川卓巨人入団をはじめ、金田正一の400勝、王貞治の756本塁打、江夏豊のオールスター戦9連続三振などを取材。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め、三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団法人・全国野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、東京運動記者クラブ会友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。

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