【コラム】渡邊雄太が送るバスケットボール漬けの人生: 忙しくも充実したNBA1年目(青木崇)

2019-04-16
読了時間 約2分

これが自分の求めていた生活なので、すごく充実しています

「バスケットボールのない人生は考えられない」。

メンフィス・グリズリーズの渡邊雄太はこの言葉を何度も口にしている。小学2年生のときにNBAの試合をテレビで見た際、「僕、NBAでやりたい」と言った少年は、父・英幸氏から「テレビを見ていないで練習に行こうぜ」と促され、すぐに実行に移した。それがすべての始まりだった。 

午前6時から小学校の校庭でシュートとボールハンドリングの練習を毎日欠かさずやってきた。文字通り、渡邊は今、バスケットボールに人生を捧げている。とはいえ、今シーズンからNBA選手というプロアスリートになるまでは、学生として勉強にも時間を費やす必要があった。

「大学のときは勉強をしていた分、バスケットボールの時間が割かれる部分がありましたし、勉強は当然大事なので、そこにしっかり時間を使っていました。大学のとき、プロになったら勉強しなくなる分、時間的に余裕ができるのかなという風に思っていました。いざプロになってみると、年間80何試合、プラス、Gリーグ(とNBA)を行ったり来たりで、思っていた以上に忙しい。けど、これが自分の求めていた生活なので、すごく充実しています」。

GリーグとNBAを行き来する生活は、「体力に自信がある」と言う渡邊にとっても大きなチャレンジだ。Gリーグ選手として移動する際は、午前4時台に起床し、飛行機も乗り継ぎの連続で次の試合会場に行くことが当たり前だった。

「その中でも結果を残して行く選手が、NBAに呼ばれて活躍していく選手だと思います。Gリーグのどの選手も同じなので、そこはある意味一つのモチベーションというか。NBAだと自分たちの飛行機を使うことができるので、自分のモチベーションに変えてやっていました」。

これもバスケットボール漬けの人生の一部だ。体力を回復するために休む必要があっても、最低限のシューティングを行なうなど、1日中何もせずに過ごすことがないように“アクティブ・レスト”の習慣が身についた。ジョージ・ワシントン大学での4年間は、体を休めるときに授業に向けての勉強をしていたが、今は自分のプレイや参考になる他のNBA選手の映像を見て、気付きと学びの時間にすることができる。

Gリーグのシーズン終盤、対戦相手は渡邊の傾向を把握し、しっかり対策を練って遂行してきた。攻めにくい守り方をされている試合が増えていると気付いたことで、「自分の引き出しというか、武器をもっと増やさなければいけない」と感じることもできた。

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試合間隔があるためにじっくり相手のスカウティングができる大学時代と違い、NBAとGリーグは中1日や2日連続が当たり前。渡邊が、体を休ませる時間帯に映像をチェックしていることは、バスケットボール漬けの生活の一例であり、それは彼の充実感につながっていると言っていい。

普段から他のNBA選手と一緒に練習できるという素晴らしい環境はほかにない

その一方で、NBAは想定外のことが突然起こるビジネスであり、生存競争の激しい世界でもある。渡邊が望むバスケットボール漬けの生活は、突然終わりを告げることもありうるのだ。

今シーズンのグリズリーズは渡邊を含む合計4人が2ウェイ契約でサインしたが、渡邊以外の2人はシーズン途中で解雇されている。また、チームの大黒柱だったマルク・ガソルら、多くの選手がトレードによってチームを去る姿も目の当たりにした。そんな中で、渡邊は世界最高レベルのバスケットボールを毎日体感できる立ち位置を勝ち取り、1シーズンを生き残った。

「ハッピーはハッピーですね。自分がずっと目指してきていた世界にいて、試合に出られないのは当然悔しいです。けど、それでもその中にいて、普段から他のNBA選手と一緒に練習できるという素晴らしい環境はほかにありません」。 

レギュラーシーズンを終えた翌日の4月11日、グリズリーズのオーナー、ロバート・ペラ氏はJ.B.・ビッカースタッフ・ヘッドコーチの解任と、クリス・ウォレスGMを同職から外す決定を下した。2ウェイプレイヤーとして来季も契約下にあるとはいえ、この動きにより、渡邊の先行きは不透明になったかもしれない。

それでも、NBAで一貫した出場時間を得られる選手になるという、渡邊の次の目標は不変だ。世界最高レベルの環境でバスケットボール漬けの日々を継続するためにも、今、渡邊自身ができるのは、よりハングリーになって努力していくことだけなのだ。

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