年間最優秀アスリートを選ぶのは困難がつきものだ。考慮しなくてはならないことが多すぎるからだ。考慮すべきは要素、成績、リーダシップ、競技外での業績、そのすべてか、それらではないのか、主観的な総合力か、そしてどの成績が最も大きな意味を持つのか、どの成績が最も際立っているか、どのスポーツが最も競技者にとって困難なのか――。
そうした疑問が毎年のように浮かんでくる。そしてそれだけではない。多くの時間が熟慮と激しい議論に費やされることもしばしば起こる。しかし、ときには、答えがあまりにも明確すぎて議論することすら馬鹿げていると思えることもある。
2021年はまさにそんな年だった。なぜなら、それはすべて大谷翔平だからだ。
この常識離れで、開いた口が塞がらない、まるでスーパーヒーローのような、満票でアメリカン・リーグの最優秀選手賞(MVP)に選ばれた人物が、今年ロサンゼルス・エンゼルスと野球界全体のために成し遂げたことは、驚異的でありすぎるがために、どのアスリートが最高のシーズンを送ったかという議論を無意味にしてしまう。だからこそ、大谷が『スポーティングニュース』の2021年最優秀アスリートに選ばれることには議論の余地すらない。
このことについて詳しく述べる前に、大谷の今シーズンがいかに特別でケタ外れであったかを指摘しておきたい。我々は大谷の今シーズンをスポーツの歴史における最高のシーズンにも選出しているのだ。
しかし、そのことに疑いを持つ人、あるいは2021年のMLBシーズンそのものに関心を持たなかった人のために、大谷がいかに特別な存在であったかをもう一度説明しておこう。いかに大谷翔平が常識の範囲で語ることができない存在であるかを――。
まずは基本から。大谷は46本のホームランを打ち、100打点と103得点を挙げた。メジャーリーグでトップとなる8本の3塁打も記録している。しかし、これらの数字をもっと深く掘り下げていくと、大谷の凄さがさらに浮き彫りになり、いかに大谷が他の選手たちからかけ離れた存在であるかが明らかになる。考えてもみてほしい。
大谷は11.7打席ごとに1本のホームランを打った。アメリカン・リーグで1位の数字だ。大谷が打ったフライの32.9%がホームランになった。これはメジャーリーグ全体で1位の数字だ。バットの芯(バレル)でボールを捉えたのは78回で、これも誰よりも多い。バレル率は22.3%で、これもメジャーリーグ全体で1位。敬遠四球は20個で、アメリカン・リーグで断然のトップだ。そして大谷の『パワーとスピードを組み合わせた評価』は33.2で、もちろんこれもメジャーリーグ全体で1位だ。
大谷はまた打撃に関するいくつかの分野でトップ5に入っている。wRC+ (152)、OPS (.965)、 強打率(45.1)、そして合計塁数(318)である。
まだ納得できないだろうか? 忘れてならないことは、大谷は投手でもあることだ。
大谷の凄さについて語るとき、大谷が投手でもあることの意味をまだ理解できない人がいる。大谷はただ投げるだけではない。大谷のピッチングはバッティングと同じくらいのエリートレベルなのだ。
スポーティングニュースがスポーツ界最高の50シーズンを選んだ記事でライアン・ファーガン記者はこう述べている。
「パトリック・マホームズがセーフティーとしてパスを奪う場面やアレクサンドル・オベチキンが週に1回だけゴーリーとしてシュートを大きなパッドで防ぐ場面を想像してみてほしい。考えるだけ馬鹿げていると思うだろう」。
まさにその通りだ。
大谷が2021年に我々に見せてくれた巨大な才能は、ただ珍しいだけでも、歴史的なものだけでもない。それをはるかに超えるものだ。
MLBにはベーブ・ルース以来、100年以上も二刀流選手は現れなかった。大谷を語るときにルースと比較することはよくあるが、その比較すらあるいは無意味になったかもしれない。なぜなら、大谷が2021年に成し遂げたようなシーズンをルースは一度も送ったことがないからだ。
大谷は打撃面での成績のほかに、投手としては9勝2敗、防御率3.18だった。たったの130イニングで156の三振を奪った。どんな投手でも満足するべきシーズン成績ではあるが、パートタイムの投手としては驚異的だ。それもラッキーなアウトを積み重ねるのではなく、圧倒的でえげつないピッチングなのだ。
大谷は4つの効果的な球種を持っている。ますは時速101マイル(約163km)にも届く速球。そして、最も効果的な決め球はスプリット・フィンガー・ファストボールだ。打者が空振りする確率は49%に近く、打率は.087に抑えられる。大谷と対戦した打者の平均打球速度は88マイル前後(約142km)で、それは大谷が常に打者に弱い打球を打たせていることを意味する。
また、大谷は対戦した全打者の打率を.207に抑え、得点圏打率は.286に抑え込んでいる。つまりシーズンを通して出塁を最少に留めているということだ。それこそが、最も投手に求められている仕事である。
これらの要素をすべて足していくと、大谷のWAR数値(『Baseball Reference』式)は9.0になる。容易に想像がつく通り、これはメジャーリーグで一番の数字だ。
公正に言えば、大谷の打撃成績はアメリカン・リーグで最高ではない。そして投手としてのパフォーマンスもトップ級というわけでもない。そうした議論はある重要なポイントを見逃している。大谷の真価を生み出すために、投打のどちらかの分野で1番になる必要はない。
リーグ平均程度の投手が10本以上のホームランを打てば、それは巨大な才能と言えるだろう。同じように、リーグ平均程度の打者が100マイル(約161km)を越える速球とえげつない変化球を投げたら、それはエリート級のスキルだと言えるだろう。
だが、大谷はマウンドの上ではリーグ平均ではなく、打席に立てば、平均よりはるかに上だ。だからこそ大谷は歴史的にユニークな存在であるだけではなく、アメリカン・リーグMVP、スポーティングニュース年間最優秀MLB選手、そしてスポーティングニュース年間最優秀アスリートなどへの選出に議論の余地すらなくなるのだ。
他のメジャーリーガーたちも大谷には驚きを隠せない。メッツのマーカス・ストローマン投手は大谷のことを「人間の形をした神話上の伝説」とまで呼んだ。
マーカス・ストローマンのツイート:
「大谷は人間の形をした神話上の伝説だ。信じられない、を通り越している。メジャーリーグの誰もが大谷の才能には驚いている。試合が終わったら、僕はいつもすぐにスマホで大谷の今夜の成績をチェックしているのさ!(笑)」
ストローマンの言葉にはウソは見当たらない。
目に見える数字からしても、大谷の2021年シーズンは単に歴史的な好成績ではない。野球界のみならず、スポーツ界全体においても、先例がなかったものなのだ。
大谷は2021年の最優秀アスリートだった。そして、あらゆる年と比較しても最も優秀だったのだ。
唯一の疑問は、これから大谷がどれだけ進化していくのか、である。
(翻訳:角谷剛)