バレーボールでは、180~200cm超の高身長の選手たちが3mを超える到達点から力一杯にボールを叩きつける。男子では時速150kmほどのスピードが出るといわれており、圧倒的な高さから繰り出されるスパイクには、他のスポーツにはない迫力がある。
しかし、偏にスパイクといっても、スパイカーたちはただ単純にボールを叩いているだけではない。
トスを供給するセッターが相手の動きを見て、スパイカーも布陣を確認しながら打つ場所を決めている。ただ、その細かい技術はバレー未経験者の素人にはなかなか伝わりづらい。
『攻撃編』では、どこに注目して観戦すればバレーボールの試合をより楽しめるのか、現役時代にはスパイカーとして活躍した狩野舞子さんに伺った。
狩野舞子:2007年に久光製薬スプリングスに入部し、実業団でのキャリアをスタートさせる。世界2大リーグといわれるイタリアとトルコでプレーし、海外挑戦も経験。代表では、2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲得した。国内復帰後は、久光製薬とPFUブルーキャッツで活躍。2018年4月に現役引退を発表し、現在はDAZNで解説やリポーターを務めるなど、活躍の場を広げている。
いいスパイカーは、ボールから目を離す
——バレーボールの花形であるスパイカーですが、試合を観るときはどこに注目するといいのでしょうか?
スパイカーが一度ボールから目を離すっていうのは、見ていておもしろいかもしれないです。ちょっと難しいかもしれませんが、セッターがトスを上げる前に助走をするとき、スパイカーは必ず一度ボールから目を離して相手のコートを見るんです。ずっとボールばかり追っていると、相手がどういうレシーブ体系を敷いていて、どこにブロックがついているかが全くわからないからです。
ボールから目を離してしっかり相手のコートを見れる選手は、やっぱりいい選手だと思います。そこは注目してほしいですね。
あと、きれいなトスのときは誰でも思いっきりスパイクを打てますが、少し短かったり、(ネットから)離れたりすると打ちにくくなります。そのときのトスによって、そのスパイカーがどう修正していくのかも見てほしいなと思います。
修正能力の高い選手は、トスが多少乱れてもしっかり攻撃まで繋げることができるので、そういう選手はいい選手だと思います。
スパイカーは跳ぶ前に一度相手のコートを見て、打つ場所を定める(写真は東レアローズの黒後愛)
チームはセッターで変わる
セッターもトスを上げる前に相手のコートを確認して、相手の逆をついたりします。相手ありきのスポーツなので、いかに相手を欺くか、というか、駆け引きで味方を活かすプレーをしないといけません。ボールだけを追うのではなく、選手の動きや、ボールに関わっていない選手がどういう動きをしているか、そういうところにも注目すると楽しめると思います。
——スパイクのときにはブロックがつきますよね。スパイカーが打ちやすい状況は、どうやって作るんですか?
それはセッターの技量ですね。相手は3枚ブロックがいるので、打つ選手1人に対して2枚つかれたら、とても不利になります。だから、できれば1対1にしたい。セッターはそれを考えながらトスを上げるんです。
エースにはブロックが2枚つきやすいし、速い攻撃だったら2枚つくのは難しい。そういう戦略を組み合わせてやっていきます。
——現役時代はセッターもやられていましたが、セッターの難しさはどこにあるのでしょう?
簡単に言うと、相手のミドルの選手と逆側にトスを上ればいいのです。ブロックを1枚にできるので。相手の真ん中の選手は(ネットを挟んで)自分の向かい側にいるので、左右の選手がどっちに寄っているのかを、まず何となく見てきます。試合経過だったり、こちらの布陣にもよりますが、そこから判断して、相手の逆をつくようにセッターが選択していきます。
やっぱり経験が浅かったり、自分の技術がまだ低かったりすると、思ったように相手の逆をついて上げることもできません。観察力というか、相手を見る力というのは、すごく大事だと思います。私も最初の頃はきちんと見えていなかったから、上げたあとに「あー!(ブロックが)いたー!」とか、「2枚ついてたー!」みたいなことがよくあったので、試合の中でどんどん慣れて行くしかないんだと思います。
——チームの戦術、特徴、色などは、セッターによって変わるものですか?
変わると思いますね。セッターが代わるだけで、リズムとかテンポみたいなものも全く変わりますし、試合の流れや雰囲気も変わってきますね。
セッターはチームの司令塔(写真はデンソーエアリービーズの田原愛里)
攻撃の専門職、オポジット
——セッターの対角に位置するオポジットには、どんな役割があるんでしょうか?
女子には、ほとんどいないポジションです。男子だと外国人の一番大きい選手がオポジットに入って、とにかく打つ専門みたいな感じです。前衛にいる時はもちろん打つし、後衛にまわった時もバックアタックで中心となって攻撃をしていく選手のことを言います。
女子でも海外だと結構いますが、日本だと守備型の選手がライト側に入って、守備中心で速い攻撃をいいアクセントで動き回るっていう選手が多いので、ちょっと女子と男子だとオポジットの役割、呼び方は一緒なんですけど、試合の中での役割は少し変わってくるかもしれないですね。
——狩野さんは外国でもプレーされていましたが、チームメートにオポジットはいましたか?
いましたね。とにかく打つ、得点力のある選手をライト側に配置して、私はサーブレシーブ中心のウィングスパイカーとしてレフト側に入っていました。もちろん得点しないといけませんが、どちらかというと守備で貢献していた方でしたね。
男子は、長身の外国人選手がオポジットを務めるケースが多い(写真はサントリーサンバーズのドミトリー・ムセルスキー)
まとめ:「攻撃では、ここに注目!」
<スパイカー>
- スパイクを打つ前の目線
- トスが乱れた時の修正能力
<セッター>
- 相手を欺き、ブロックの数を減らしている
- 選手が代わるとチームが変わる
<オポジット>
- 男子は大きい選手がとにかく攻撃
- 女子は守備でも貢献
取材:早坂卓真
撮影:深田玲子
グラフィック:Nera Omllero
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